文学碑を建立して 一宮館 金沢 良一郎
九十九里浜の南端に位置するここ上総一の宮は、かつては別荘が立ち並び、東の大磯と言われたところです。
芥川龍之介先生は、友人久米正雄氏と大正五年八月十七日から九月二日まで、当一宮館の離れで一夏を過されました。滞在中は夏目漱石師にボヘミアンライフぶりを紹介したり、のちの夫人文さんに愛をうちあけた長い求婚の手紙をお書きになっています。
この稀にみる偉大な作家の人生の舞台の一つとして、当一宮館が選ばれましたことは、幾多の偶然が重なったとはいえ、たいへん誇らしいことと思っています。先生は当館滞在時代の思い出を「微笑」や「海のほとり」その他の作品に綴られていますが、近年、文学散歩で当館においでになるお客様が、年ごとに増えております。
龍之介先生のご滞在以来、その離れを“芥川荘”と名づけて、大切に守って参りましたが、先生ゆかりのこの地に記念碑を建てることは、私どもの長い間の夢でした。
本年は、先生の生誕数えで百年、また恋文を書かれてから七十五年を閲みしました。当館では、このことを記念して、このたび芥川瑠璃子さんはじめ芥川家の皆様方の快いご了解をいただき、また関係の皆様方のご賛同と、身にあまるお力添えを賜りまして、“芥川荘”を包む松林の碑と一隅に、恋文全文を刻した文学碑を建立する運びとなりました。
私どもはこれを機会に、この偉大な作家の更なる理解と、文学の啓蒙につとめて参りたいと、意を新たにいたしております。どうか末永くご支援くださいますよう、お願い申しあげます。
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